▼Nゲージ「アーノルド DB103 修理」

今回は、こちらの機関車の修理でございます。

現状の動作状態を確認します。音はしていますが、動きません。

まずは分解です。

大変古い製品というこもあって、プラ割れおよび変形が確認できます。

まずボディーを外す作業ですが、どうしても外れません。なにをしてもびくともしません。約1時間ボディーと格闘しても一向に外れる気がしません。ここまでボディーが外れないのは初めです。両側に貼り付いている感じです。まさか、接着とかしてませんよね~。と言うのも、先端パーツが接着されており抜けない状態でしたので、もしかしたらもしかするかもと思いました。

これ以降の作業はボディーを損傷させてしまうリスクを伴うため、ご依頼者様にご許可を頂いた上で作業を進めます。


ボディー割れのリスクもあることをご承知いただけましたので、作業を継続していきます。なんだかボディーが膨らんでいるようにも見えます。


まず、接着剤が原因であればラッカーシンナーで溶けるはずです。筆で少しずつ流し込んで貼り付いた部分を溶かしてみます。

次に、専用工具を作り床下とボディーを別々に引っ張りますが、外れません。さらに力を入れて引っ張りますが、どうしても外れません。

本来このようにボディーを軽く開いて持ち上げると外れるはずです。すでにボディーと格闘すること1時間半が経過しました。

やもえないので、前方の黒いパーツを割って基盤を取り出してから内部の様子を見てみることにします。

「うゎ!」ダイキャストが車体内部で膨張して反り返っています。細かい亀裂も多数が確認できます。どうりでいくら引っ張っても外れないわけです。変形して内部でパンパンの状態です。現状この状態で作業するほかありませんね。無理に引き抜こうとすると、バラバラに崩壊する可能性が非常に高いです。既にいくつかの個所が砕けています。

過去、お受けした外国型車両の修理品の中で初めて直面する問題かもしれません。ダイキャストがこの状態ですからギアなども劣化による亀裂が入っていると思われます。

モーターから配線をいったん外して基盤と分離させます。

ご覧いただくとわかると思いますが、ダイキャストが反り返っています。また多くの亀裂が見受けられます。

モーターを固定するパーツも割れており、こちらはピンセットで簡単に取れてしまいました。

今回の修理では、単にギア交換といった短銃な作業とはいかないようですね。内部を根本的に作り直さないとダメそうですね。さすがにこれは想定していませんでした。かなり時間のかかる作業に突入しそうなので、一旦この状態で保留して今後の作業工程を考えるとします。


いろいろ考えた結果、作業の方向性が定まりましたので再開です。まずは、内部のダキャストすべて取り除く作業から始めます。

まずは、モータを引き抜きます。

次に側面の繋ぎを砕いて、プライヤーを使ってダイキャスト本体をスライドさせて引き抜きます。

さて、ここからです。まずは車体の底面を高画質スキャンしてPCに取り込みます。

ノギスを使って内径を測ります。

スキャンしたデータとの誤差の修正を行い、テストデータを作ります。

レーザーで切り出してまずは試作を作ります。

若干固いようです。もう少し前後のサイズを微調整します。

今度はぴったりはまりました。

台車とモーターを配置してみて全体の位置関係を確認します。データが得られたので、各部の修正を行い実際に組込む床を設計します。

出来上がった正式な設計データをもとにレーザーで切り出します。

別々の2枚のパーツを重ね合わせて使用します。

床下機器のパーツの爪の引っ掛け部分を削っておきます。

このように中心位置にぴったりと配置されます。

1つのパーツに合体させます。

台車と床下機器を取付けた状態です。設計通りぴったり収まりました。さらに作業を進めます。

周りをヤスリで整えてから下面を黒で塗装します。


次に台車もロックした状態で回りませんので、こちらもしっかりと見ていきます。

ギア割れと損傷が複数のギアで見られます。悩ましのは、それぞれ形状の違うギアが損傷している点です。過去の修復作業では、1種のみの損傷ということで、設計データは1つで済みましたので、同一形状のギアを複製して組み込むことで対応できましたが、こちらの車体では形状の違う3種のギアがすべて損傷していることから、それぞれ個別に設計する作業が発生します。しかも大変小さいギアですから、わずかなずれも許されません。走行できるまでどれほど時間がかかるのか、さすがに心配になってきました。ここ最近、作業のご依頼内容の難度が高いものが多く、まるます1日かけても思ったような成果が出ないこともよくあります。

さて、気を取り直して高解像スキャンしたギアです。左の異なるギア2種が欠損。一番右のギアが、過去の修理でもよく見られた割れによるピッチずれです。どれも大変小さいギアですので、高難度の作業となります。


それ以外にも、新規設計した床に配線の引き直しとライト再配置、モーターマウントの設置とシャフトの調整など、まだ多数の工程があります。あまりにも時間のかかる車体となっていることから、さすがに時間的にちょっと厳しくなってきましたが、ここまで来たのであとは頑張っていくほかありません。

3種のギア設計が終わったので、早速3Dプリンターで出力してみます。

紫外線で2次硬化させます。

出来上がってきたギアです。

早速組み込んで確認していきます。

いつものことですが、最終調整は人の手で行います。針ヤスリを使って、1つ1つピッチを整えていきます。手で回して引っ掛かりがなくなるまで調整を繰り返し行います。

取付けては確認、また外しては調整をひたすら繰り返して、抵抗なくギアが回るまでこの作業を行います。

ようやく許容範囲に収まる調整が完了です。

次に電気的な配線などをすべて作ります。

ようやく先が見えてきました。明日にはモーターマウントとヘッドライト用の光源を配置して、各種パーツを取付けた状態でテスト走行までこぎつけそうです。

さて、ようやくここまで来ましたのでモーターを実際に載せて最終調整に入ります。

前後左右のモーター位置調整が大変重要となりますので、特に慎重に確認します。わずかにずれるとドライブシャフトに負荷がかかり、抵抗となるだけでなく異音発生の原因となります。


う~ん、台車がバタつき異音まで出ます。もう一度、設計を見直す必要がありそうです。泥沼入り確定。がっくり


ギア以外に台車とモーターの間隔を0.5mm後方にずらして、ドライブシャフトの可動範囲に若干のキャパを持たせます。もう一度、床板の作り直しです。

新たに修正を加えた床板です。写真では違いがわからないと思いますが、台車の間隔が1mmほど開いています。

再度、集電板をそれぞれ配置して固定しなおします。

台車も再度分解してギアのピッチ微調整を行いました。

ボディーを被せて走行テストを繰り返します。

取り外したダイキャストは分断してウェイトとして使用します。

ウェイトを入れた状態でテストします。往復運転を繰り返して、異音と振動を見ていきます。

良さそうです。あとはライトの光源を取付けて再度テストです。

ライトの光源(高輝度電球色LED)を取付けます。

ライトも明るさ、色合い、すべてばっちりです。ようやく作業が完了しました~。長かった~。

ちなみに、パンタの片側が壊れていたので、こちらもお直しいたしました。1mmの真鍮パイプをカットして差し込みました。これでしっかりと所定の位置にパンタが収まります。

皆様へ・・・こちらの機関車をお持ちの方は一度ケースから出して、車体の状態を確認することをお勧めします。内部でダイキャスト膨張、変形している可能性があります。そのまま放置すると、ボディー自体が変形する可能性もございます。

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